かつては日本でもアメリカでも、子どもが風邪を引くと、親は薬を子どもに与えるのが当然でした。しかし驚くべきことに、そうしたごく普通の風邪薬に効果があるのか、子どもに対して投与しても安全なのかは分かっていませんでした。
数年前からアメリカ国内で市販の風邪薬を子どもに投与したときの安全性について、大きな議論が起こっていました。と言うのは、市販の風邪薬によると思われる子どもの突然死がかなりの数いることが分かってきたからです。多くは鼻づまりの薬と抗ヒスタミン剤の使用によって起ったものですが、規定量以上の薬を服用した可能性も示唆されています。
こうした調査から、米国FDA(米国食品医薬品局)は2歳未満の子どもへの風邪薬を投与しないように勧告を出しました。なお、現在は6歳まで薬を投与しないようにと、対象を拡大しています。このような動きを受けて、日本の厚生労働省も同様に市販の風邪薬の投与を禁止するよう、通達をだしています。
現在、使われている子ども用の風邪薬は約40年も前の1970年代に承認・販売されたものです。
当時、これらの風邪薬が子どもに効果があるかどうか十分に調べる方法はありませんでした。大人に対する効果をそのまま子どもにも適応し、効果があるのでは?という推論に基づいて承認されたのです。
学会も、子どもの風邪薬が症状を改善するものでもなければ、風邪を治す薬でもないことを訴えています。風邪はウィルスで起こるもので、自然に治癒します。風邪薬を服用したからといって、早く治ったり、症状が改善するとは限りません。場合によっては、風邪症状が長引いたり、悪化することもあるのです。
以上より、当院では以下のお話をさせて頂くことが多いです。
1、2才までの子どもには、風邪薬や咳止めは与えてはいけない。
2、2才以上6才以下の子どもにも原則として風邪薬は与えない。
以下は6才以上の子どもに関して:
3、大人用の薬を子どもには与えない。
4、風邪薬や咳止めはいろいろな濃度のものがあり、正しい薬かどうか自信のない時は医師・看護師などに聞く。
5、薬を与えすぎると、重症の副作用につながることがある。
6、せき止めや、風邪薬は風邪そのものを治すものではなくて、単に症状を抑えるだけのもので、その効果もはっきりしていない。子どもはほとんどの場合、時間の経過と共に症状が改善することを理解する。
7、もし、子どもの容態が悪化したり、良くならないようであれば、医療機関を受診する。 これは治療のためではなく、全身状態を評価するためである
残念ながら、薬では風邪の治療はできませんし、肺炎などの合併症を防ぐ効果もないことが分かっています。
それでは風邪の小さい子どもが風邪を引いたときや、予防はどうすれば良いのでしょうか?
鼻づまりには、生理食塩水を鼻にたらし、鼻水は吸引機で吸い出します。部屋で加湿器を使用すれば、鼻や咳の症状が少しマシになります。
発熱にはアセトアミノフェン(カロナールやアンヒバなど)を使用します。もっとも、できるだけ熱は下げない方が、風邪が治りやすいのは事実ですので、解熱剤の使用は最小にすべきでしょう。
風邪の予防には、家庭の全員の手洗いをよく行ない、風邪を引いた人に子どもを近づけないようにします。また、子どもの近くでたばこを吸わないのも大切なことです。
風邪を引くというのは、ある意味正常な免疫を作るという意味もあるのです。
小さい頃から風邪を繰り返している子どもさんの方が、将来の喘息などのアレルギー疾患が少ないことが分かっています。また子どものうちに風邪を引く回数はほぼ決まっていて、保育所などではものすごく頻繁に熱が出ますが、その分早く風邪に強くなるということでもあります。
人の免疫は4歳頃までがもっとも発達します。この間にさまざまな病原菌に感染し、免疫や抗体を作っておくということは、年長や成人になってから社会生活を送るための準備段階と言えるかもしれません。
風邪はいやなものですが、体を強くしてくれるという大切な側面も持っているのです。